深刻化する太田市製ワーキングプア
太田市では今年4月から、管理職手当てと臨時・嘱託職員の賃金を削減します。
管理職手当ての削減は課長補佐以上で10%、係長以下で5%とされ、全体で4,700万円ほどが削減(今年度1年間)されます。
さらに臨時・嘱託職員は、勤務時間を3月までの1日7時間45分から6時間に短縮し、賃金は全体で1億円ほどを削減(同)するとされます。
※他の自治体も同様ですが、太田市では職員の給料の呼称について、正規職員は「給料」、臨時・嘱託職員は「賃金」としています。
臨時・嘱託職員の賃金
生活保護基準以下
昨年度でも臨時・嘱託職員の賃金は月13万円ほどですが、今回の勤務時間短縮による賃金削減によって、賃金は月11万円ほどになってしまいます。
臨時職員はボーナスもありませんから、年収は130万円ほど、嘱託職員も年2.9カ月のボーナス(昨年度までは年3カ月)を含めて年収160万円ほどにしかなりません。
生活保護の受給世帯では、単身者で障害者加算や母子加算がない場合、年間の保護費は約115万円(家賃3万円の場合)となります。
年収が173万5,000円の人の所得は103万9,200円です。
健康保険や年金など社会保険料を差し引くと実質の所得はさらに下がります。
生活保護世帯は各種の税金や国保税などが免除されますから、年160万円あるいは、それ以下の賃金となる太田市の臨時・嘱託職員は、生活保護基準以下の所得となってしまいます。
昨年度でも、臨時職員は年収160万円ほど、嘱託職員は年収200万円ほどでしかなく、「太田市製ワーキングプア」としか言えない状態でしたが、生活保護基準さえ下回る今回の賃金削減は、この状態をさらに深刻化させるもので、とても許されるものではありません。
臨時・嘱託職員の時短による賃下げ
法律に違反しないか
労働契約法
第1条
目的
労働契約法の目的を規定した同法第1条では、同法について、「労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする」と規定しています。
第3条
労働契約の原則
さらに労働契約の原則を規定した同法第3条では、「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする」と規定しています。
3条3項
さらに同条第3項では、「労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする」と規定しています。
3条4項
また同条第4項では、「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない」と規定しています。
3条5項
そして同条第5項では、「労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない」と規定しています。
第4条
労働契約の内容の理解の促進
同法第4条では、「使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする」と規定し、第2項では、「労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする」と規定しています。
第6条
労働契約の成立
同法第6条では、「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」と規定しています。
第8条
労働契約の内容の変更
同法第8条では、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」と規定しています。
第9条
就業規則による
労働契約の内容の変更
同法第9条では、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と規定しています。
第11条
就業規則の変更に関する手続
就業規則の変更に関する手続きを規定した労働契約法第11条では、就業規則の変更の手続きについて、労働基準法第89条及び第90条の規定によるとされています。
労基法89条
就業規則の変更
就業規則の作成及び届出の義務を規定した労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する使用者にたいして、「始業及び終業の時刻」、「臨時(嘱託職員も含めて)の賃金など」の決定と変更について、就業規則の作成と行政官庁への届出を義務付けています。
労基法90条
就業規則の変更手続き
さらに就業規則の作成の手続きを規定した同法第90条では、使用者にたいして、就業規則の作成または変更について、職場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならないと規定しています。
労働契約法
第12条
就業規則違反の労働契約
は無効
就業規則違反の労働契約について規定した同法第12条では、就業規則に違反する労働条件を定める労働契約は無効と規定しています。
第13条
法令及び労働協約と
就業規則との関係
同法第13条では、就業規則が法令又は労働協約に違反する場合には、無効と規定しています。
自治法2条16項
法令順守
地方自治法第2条16項では、自治体は法令に違反してはならないと規定しています。
法律違反の可能性
今回の勤務時間短縮による賃下げには、労働基準法(労基法)や労働契約法で義務付けられている「労働者の過半数で組織される労組からの意見聴取」が必要です。
しかし市職員組合との協議は行われているものの、臨時・嘱託職員は市職員組合には加入していません。
労働者の過半数で構成される労働組合がない場合に、やはり労基法や労働契約法で義務付けられている、市職員組合以外の「労働者の過半数を代表する者からの意見聴取」も行われていません。
労組についても、臨時・嘱託職員が加入していないのですから、当事者の意見を聞いて代弁することができないとしても、その責任を転嫁することはできません。
やはりその責任は、市当局にあるといえます。
臨時・嘱託職員の全員にたいして、それぞれの職場の上司から、勤務時間の短縮とそれにともなう賃下げの計画は伝えられたとされます。
しかしその際に、どれだけ当事者となる臨時・嘱託職員から個別に意見を聴取できたのか、実態として、臨時・嘱託職員それぞれがどれだけの意見を上司に伝えることができたのかが問題です。
今回の勤務時間短縮による賃下げは、前述した労基法、労働契約法の規定から考えると、労働契約法では第1条の「労働者の保護」、第3条各項の「労使の対等な立場での合意」、「労働者の仕事と生活の調和への配慮」、「労働契約の順守と義務の履行」、「権利の濫用禁止」、第4条の「労働者の理解を深める努力」、「できる限り書面によるとされる確認義務」、第6条の「労使の合意による成立」、第8条の「労働契約の変更に当たっての労働者と使用者の合意」、第9条の「労使合意のない就業規則の変更による、労働者への不利益の禁止」などに違反している可能性が高いものといえます。
さらに、労働契約法第12条では、就業規則に反する労働条件を定める労働契約は無効とされ、同法第13条では、就業規則が法令又は労働協約に違反する場合には無効とされます。
また地方自治法第2条16項では、自治体は法令に違反してはならないと規定しています。
こうして関係法令をみると、今回の賃下げは、法律違反の可能性がいよいよ極めて高いものと言えます。
今回の臨時・嘱託職員の勤務時間短縮による賃下げは、条例改定が必要ないことから、議案としては提案されなかったため、議会での採決はありませんでした。
私は、予算にたいする反対討論で、この問題も反対の理由として指摘しました。
ほかには社民クラブの議員が、予算にたいする総括質疑でこの問題をただしましたが、予算には賛成しています。
※次の記事に続きます。
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